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知っておきたい 健康を守る家の条件

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「冬は布団から出るのがつらい」
「暖房したリビングから一歩廊下に出たとたん、あまりの寒さに体が震えた・・・」
「夏の夜は暑くて眠れず、毎日寝不足」
こんな経験はないだろうか?
家の中の室温に対して不満を持つ人は多いが、寒くて暑い家は快適に過ごせないだけでなく、
私たちの健康をおびやかすこともあることが様々な調査、研究によって明らかになってきた。
家族が健康に過ごせる家づくりをするためには、どんなことに注意すればいいのだろう?
データとともに解説するので、ぜひ参考にして。

住まいについて不満に思っていること

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マイホーム編集部調べ

教えてくれたのは

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株式会社 タカ建築
代表取締役 二級建築士
髙元 竜太さん

建てた後のメンテナンスに定評のある地域密着工務店の代表。高気密・高断熱住宅をはじめ、最先端の技術で安心・快適・健康な家づくりを熱く語る若き建築のプロ

寒い家には危険がいっぱい

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住まいに対する不満で最も多かったのが「寒い、暑い」という室温に関するもの。とはいえ「冬は寒くても仕方ない」と我慢している方も多いだろう。だが、家の中の寒さ、暑さが実は健康に悪影響を及ぼす大きな原因となっているのだ。なぜ家の寒さ、暑さが健康リスクとなるのだろうか?具体的に見ていこう。

Q.家の中の寒さは体にどんな影響を与えるの?

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A.部屋ごとの温度差がヒートショックの原因に
1月をピークに冬季に増加するのが家庭内での死亡事故。その多くが入浴中に起きており、その数は交通事故死亡者数よりもはるかに多い年間約17,000人(2011年/東京都健康長寿医療センター研究所による推計)。その原因は「家の中の温度差」だ。冬は、暖房している部屋としていない部屋や廊下、トイレ、浴室などとの温度差が大きくなる。この急激な温度変化で血圧が上昇・下降し心臓や脳に大きな負担がかかる、いわゆる「ヒートショック」が起き、心筋梗塞や脳卒中などの原因となるのだ。入浴時には寒い脱衣所で服を脱ぎ、冷えた体で急に熱い湯につかることでヒートショックが起きる。高齢者の場合には、それが転倒や浴室内での溺死といった事故を引き起こす場合もあるのだ。
 

ここもPOINT 浴室だけじゃない!夜の寝室やトイレも要注意!

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布団と寝室の温度差は20℃になることも
冬、夜中に暖かい布団を出て、寒さにふるえながらトイレに行った経験はないだろうか?布団の中は意外と高温で28~33℃くらいあると言われている。仮に夜中の室温が10℃くらいまで下がっていたとすると、布団を出たとたん、実に20℃以上の温度差を感じていることになる。その上、廊下やトイレは寝室よりもさらに温度が低い。この急激な温度差がヒートショックを引き起こす原因となるので注意が必要だ。
 

Q.夏の暑さによる健康リスクは?

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A.夏は室内での熱中症に注意
熱中症といえば、屋外でのスポーツ時などを想像する方も多いかもしれないが、実は室内での発生も多い。特に65歳以上の高齢者を対象に調査した結果によると、60%以上が家庭内で発生している。冬の寒さだけでなく夏の高温も健康をおびやかす原因となるのだ。また、ヒートショックといえば冬に発生するものというイメージだが、真夏に冷房の効いた部屋から暑い屋外に出た時の急激な温度差も体に影響を与える原因となるので気をつけたい。
 

PICK UP あなたの家の室温は何度?

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室温18℃未満は健康リスクがアップ
欧米の多くの国々では冬の室内を暖かくすることを推奨しており、イギリスでは室温が18℃未満になると健康リスクが高まるとされ、リスクの高い建物には改善命令が出される。日本ではまだまだ室温に対する認識が低く、起床時の室温が10℃を下回っている家も少なくないと言われるが、これからはイギリス同様に、家全体を適切な温度に保つことが求められるようになるだろう。「冷えは万病のもと」と言うが、室温が低いと免疫力が低下し、病気にかかりやすいと言われる。健康に過ごすためには適切な室温が不可欠だ。
 

室内の温度差は断熱性能に原因あり

健康を害する原因となる温度差が生まれるのは住宅の断熱性能の低さが原因。断熱性能の向上によるメリットとしては省エネによる光熱費削減が大きく取り上げられることが多いが、健康リスクから家族を守れるという点でも断熱化は重要なのだ。2020年、すべての新築住宅に対して省エネ基準が義務化され、一定の断熱性能基準を満たすことが求められており、これにより住む人の健康リスクが軽減されることが期待されている。これからの家づくりに必須となる「断熱」について見ていこう。

Q.部屋ごとの温度差をなくすにはどうすればいいの?

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A.断熱材を隙間なく入れて断熱・気密性能を高める
冬は室内の暖かい熱が外に逃げ、夏は外から熱が入ってくる。この熱の出入りを断つのが「断熱」だ。断熱材を壁や天井などに入れるのだが、ただ入れればよいわけではなく、隙間なく入れる(気密性を高める)ことが不可欠。隙間があると、そこから外気が入り込み室内の空気が逃げるため、断熱しても部屋ごとの温度差は解消できない。
 

断熱・気密性能が低い住宅

断熱・気密性能が低い住宅の画像

断熱・気密性能が低いと、暖房していない部屋は外気温に影響を受けて冬は室温が下がるため、暖房している部屋との温度差が大きくなってしまい、ヒートショックを起こすリスクが高くなる。

断熱・気密性能が高い住宅

断熱・気密性能が高い住宅の画像

断熱・気密性能の高い住宅は、外気温の影響を受けにくいので、暖房している部屋と暖房のない廊下やトイレ、浴室などとの温度差が小さい。家のどこにいてもあたたかく、快適に過ごせる。

ここもPOINT 窓の断熱性能を 上げることも欠かせない

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断熱材を隙間なく施工することに加えて、窓の断熱性能を高めることも不可欠だ。なぜなら、冬の暖房時は58%もの熱が開口部、つまり窓から外へ流れ出て、夏の冷房時は73%の熱が入り込むと言われているからだ。断熱性の高い樹脂サッシが主流で、ガラスも複層(二重)ガラス、トリプル(三重)ガラスなどがある。窓の断熱性能を高めることで熱の出入りを少なくすれば、適切な室温を保つことができる。

Q.暖房してるのに何だか寒い・・・その原因は?

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A.断熱・気密性能が低いため体感温度が低くなるから
暖房しているのになんだか寒い!と感じるのは、断熱・気密性能が低いために壁や床、天井、窓など建物の表面温度が低く、そこに熱を奪われるから。断熱・気密性能の高い家はサーモグラフィーでも一目瞭然。室温と表面温度の差がほとんどないので、同じ設定温度でも暖かく感じるのだ。例えば、断熱・気密性能の低い家の表面温度が10℃とすると、室温は20℃でも体感温度は15℃と5℃も低くなる。一方、断熱・気密性能の高い家では室温20℃に対して表面温度が18℃とすると、体感温度は19℃とほとんど差がない。断熱・気密性能が低いと、いくら暖房しても体感温度が低いため、体調に影響が出るのはもちろん、必要以上に暖房してしまうため光熱費もかかる。

断熱すると健康にどんなメリットがあるのか見てみよう

断熱・気密性能向上で健康に3つのメリット

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人間は体温を維持するために実に75%以上のエネルギーを使っている。室内の温度差が大きいと、それだけ体温維持にエネルギーを必要とするため体にとっては負担となり、だるさや免疫力の低下につながると言われている。温度差によるリスクはヒートショックだけではないのだ。断熱性能を向上させることで健康にどんな影響が出るのか、様々な研究・調査データから具体的に見ていこう。

Q.断熱性能を上げると健康面にどんなメリットがあるの?

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A.持病の症状が改善したという結果も
上のグラフは、断熱性能を向上させた家に住み替えたことで持病がどのくらい改善したかを調査した結果だ。断熱性能が高くなるほどに、すべての症状で改善率が高くなっている。なお、2020年にすべての新築住宅に適合が義務化される省エネ基準では、グレード4の省エネ等級4(断熱等性能等級4)をクリアすることが求められている。より大きな健康メリットをと考えるなら、断熱性能の向上を検討したい。

ここもPOINT 健康改善には断熱が最も効果的

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断熱性能と健康の関連性については健康改善への貢献度を調べたデータでも見ることができる。飲酒や喫煙を減らしたり、運動したりすることでも一定の改善効果が見られたが、住まいの断熱性能を向上させることがすべての症状において最も貢献度が高いという結果に。断熱がいかに健康な暮らしにとって重要な要素であるかがわかる。

結露 抑制 アレルギーの原因となる結露、カビ、ダニの発生を防ぐ

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健康を害する原因となるのは温度差だけではない。アレルギーや気管支喘息などの原因となるのがカビやダニだ。カビを発生させる大きな原因が「結露」。結露は室内の空気に含まれる水蒸気が冷えた窓ガラスなどと接触することで起こるが、断熱性能が低いと室内の表面温度が下がり、特に窓が結露しやすくなる。ダニはカビを食べるため、カビが増えればダニも増えるという悪循環に。断熱性能を高めて室内の温度差を少なくすることで結露の発生を抑えることが、アレルギーなどの健康リスクを減らすためにも大切なのだ。

換気 十分な換気で 清潔な空気環境に

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新築住宅では24時間換気システムが導入されており、室内の空気を常に入れ替えて清浄な環境を保っているが、気密性能が低いと隙間から空気が漏れるため十分に換気ができない。アレルギーや気管支喘息の原因となるダニやカビの胞子、花粉やほこりなどのハウスダストも家の中に漂い続け、健康に悪影響を与えてしまう。住まいの断熱・気密性能を高めれば、室内の空気環境を清浄に保て、アレルギーなどの病気リスクから家族を守ることができるのだ。

高断熱住宅は生涯コストがお得に~断熱化による費用対効果

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断熱・気密性能を高めることが健康で暮らすためには大切だということはわかっても、建築コストが上がるから・・・と二の足を踏んでいる方も多いかもしれない。しかし、冷暖房効率が良くなることで光熱費が削減できたり、温度差による健康リスクを減らせて医療費の負担を軽減できることも含めて考えれば、生涯にかかるコストという面ではメリットが大きいと言えるだろう。

医療費軽減のメリットはどのくらい?

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健康に過ごせて医療費も軽減できる
住まいの断熱・気密性能を向上させることによるメリットは、ヒートショックや免疫力低下による病気を予防できるということだけでなく、もちろんこれら病気に伴う医療費負担の軽減という点からも大きい。近畿大学建築学部の岩前研究室によれば、医療費の負担軽減の効果を3人家族で試算すると、年間で約3万円少なくなるという。30年では約90万円もの軽減につながる計算だ。

光熱費削減だけで29年、健康メリットもあわせると11年で回収できる

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温度差の少ない住まいにするための建築費のコストアップ分を何年で回収できるかを試算したのが右のグラフだ。一戸あたり断熱工事をしたことによる差額を100万円とした場合、省エネ効果による光熱費の削減額だけだと回収までに29年かかる計算だが、住む人の健康改善効果、医療費の負担軽減などのメリットを加えると、ぐっと短縮されて16年で回収できる計算に。さらに、健康保険などで国や行政の公的負担が減る分も加味すると、およそ3分の1の11年で回収できると試算されている。生涯にかかるコストを考えれば、断熱化による建築費のコストアップは決して高いものではないと言えるだろう。

これからの住まいづくりは「健康」が欠かせないキーワードに 国も認めた住まいと健康の関係

国土交通省は今年1月、断熱改修前後の居住者の血圧や生活習慣、身体活動量などを調査し、住宅の断熱化が住む人の健康に与える影響を検証する調査の中間報告(スマートウェルネス住宅等推進事業)を行った。報告によると、断熱改修により室温は平均で3.3℃上昇し、それに伴い居住者の血圧が低下する傾向も確認された。国は健康寿命を延ばし、医療費を削減するために高断熱住宅の普及を進める方針だ。

高断熱住宅の普及が冬の死亡リスクを減らす

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冬季の死亡増加率(都道府県別)は比較的温暖な栃木県が最も高く25%、寒冷な北海道が10%と最も低い。この差は住宅の断熱性能の違いによるものと考えられる。寒冷地は高断熱住宅が一般的で、冬の室温が高いので死亡増加率が低く、一方で太平洋沿岸など温暖地では高断熱住宅の普及が遅れ、室温が低いために死亡増加率が高いと見られている。

岡山県は北海道より家の中が寒い!

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入浴中の高齢者の心肺停止発生件数をまとめたところによると、発生が多かったのは岡山の隣県、温暖な香川と兵庫だ。北海道はここでも46位と沖縄に次ぐ少なさ。北海道は高断熱住宅が当たり前で他県に比べ室温が高いという調査もあり、このことからも断熱性能を高めることがヒートショックによる死亡リスクを防ぐ一番の方法と言えるだろう。

20年、30年後をみすえた住まいに

家族の健康を守れる安心の家づくりを
これまでにも住宅の断熱性能が健康に影響を与えることについては言われて来たが、国もその関連性を実証したことにより、今後、家づくりにおいて「健康」は不可欠な要素となってくるだろう。何より家は家族がいつまでも幸せに暮らすために建てるもの。その住まいが大事な家族の健康を守ってくれるものとなるよう、しっかり考えたい。


 

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