中島建設 株式会社　建築実例詳細　　欲しかったのは何もない広い空間

本当に、住む家は人を表すと思う。人は無意識に服や車を選んでいる。そこにはしっかりとその人の個性が表れてしまうように、家もまたしかりだ。福山郊外にお住まいのTさん宅は、すっきりした総2階建に、真黒ではない灰色がかったような「墨黒（すみぐろ）」の外壁が印象的。ウッドルーバーが差し色になって、墨黒の外観を引き立てている。「見た目は黒っぽく、光と風が通るようにしたい。物を置かずに広々とした空間」というのがTさんの注文だ。
　ご主人のご実家の、北西側に立てられた新居は、元々は蔵と納屋があり、南東側が母屋と隣接しているので、目線を変えるために2階にリビングとキッチンを配し、1階は子ども部屋と寝室にした。2階のリビング＆キッチンは、外からの視線も気にならず、カーテンをつけなかったこともあり「思っていたより広かった!」とTさん。外観の雰囲気とはまったく違い、中に入ると、白木がふんだんに使われて、木の香りが気持ちいい明るい空間になっている。かなり幅広の床材は、店舗の床や家具にも使われるシカモアの無垢材が張られ、石鹸ワックスの仕上げにより、白木の素材感を損なわないという。これは偶然にも、「店舗用の床材が余っている」という情報を耳にした中島さんが調達してきた、予想外の掘り出し物だった。より広いベランダに出る開口部と、床にできた段差を「座れる段差」に利用したのも、リビングにソファなどの大型家具を置きたくないTさんの考えとぴったりだ。
　キッチンは、シンク大きめのペニンシュラ型を選び、足元を下げることで、掃除がしやすくなっている。レンジや冷蔵庫などの、電化製品以外のキッチングッズが見えないのは、キッチン横のパントリーにすべて収納しているからだ。最初からあまり造り込まずに、住みながらアレンジできるようにしてあるのが中島建設流だ。道路に面した、さまざまな大きさの四角い開口部を持つ外側の「半屋外の土間空間」も見逃せない。バイクのメンテナンスやちょっとした作業もできる空間は、なぜかほっとするような、かけがえのない場所になっている。
　物がなく、すっきりした風通しの良い空間には、何かいいことが入ってくるような気がする。